私は、家族の話を聞く仕事をしてきた。相続で揉めた家族、揉めそうになった家族、何も起きなかった家族。数えると、200を超えていた。
聞き始めた頃は、揉める理由は財産の多さだと思っていました。あるいは、もともとの仲の悪さだと。どちらも、違いました。
このサイトは一般的な参考情報を提供しています。個別の法律・税務判断は専門家(司法書士・税理士・弁護士等)にご相談ください。事例は個人が特定されないよう再構成しています。
財産が少ない家でも、すれ違いは起きていた
「財産が少ないから揉めようがない」。そう考える方は多いと思います。私もそうでした。
ただ、聞いてきた話の中には、実家一軒と少しの預金だけの家のものが、いくつもあります。分けるものが少ないほど、「分けられないもの」の扱いが重くなる。実家を売るのか、残すのか。残すなら、誰が管理するのか。現金のように等分できないものが中心になると、話し合いはかえって難しくなっていました。
司法統計でも、遺産分割の争いの多くは、遺産総額が特別多くない家庭で起きているとされています。数字の裏にあるものを、私は聞き書きの中で何度も見てきました。
仲のいい家族ほど、確認していなかった
もう一つ、意外だったことがあります。すれ違いが深くなった家族には、「仲がいいから話さなくてもわかる」という空気があったことです。
仲がいいから、お金の話を持ち出しにくい。仲がいいから、「わかってくれているはず」と思ってしまう。仲がいいから、違和感があっても飲み込む。
そうして飲み込まれた小さな違和感は、消えていませんでした。相続という場面で、利害と感情が一度に動いたとき、たまっていたものごと表に出る。仲の良さは、確認の代わりにはならない。これが、聞き書きを続けてきた私の実感です。
すれ違いの正体は「確認していない当たり前」
200家族の話を並べてみると、すれ違いの始まりには共通の形がありました。
- 親は「長男が実家を継ぐ」と思っていた。長男は「売って分ける」と思っていた
- 介護をしてきた側は「多くもらって当然」と思っていた。他の兄弟は「均等が当然」と思っていた
- 親は「子どもたちから聞いてくるだろう」と待っていた。子は「親から話すだろう」と待っていた
どの「当たり前」も、その人の立場から見れば自然です。誰かが悪いわけではありません。ただ、突き合わせたことがない「当たり前」が、家の中に複数あった。それだけのことが、家族の形を変えてしまうことがあります。
話がこじれる前の家族がしていたこと
一方で、火種があったのに大きくならなかった家族の話も聞いてきました。特別なことをしていたわけではありません。
- 親が元気なうちに、一度だけでも「実家をどうしたいか」を口に出していた
- 介護の分担について、不満が小さいうちに言葉にしていた
- 「誰が何を知っているか」——名義、保険、口座の在りかを、家族の誰かが把握していた
共通するのは、答えを決めていたことではなく、確認だけは済ませていたことです。結論は出ていなくてもいい。「お互いがどう思っているかを知っている」だけで、いざというときの話し合いは別物になります。
だから、聞くことから始めてほしい
相続の準備というと、遺言書や税金の話から入りがちです。それも大事ですが、順番としては後でいい。
最初にするのは、確認です。わが家には、突き合わせていない「当たり前」がどこにあるのか。それを知るための5つの質問を、このサイトに置いています。
答えを決める前に、家族の話を聞く。200家族の話を聞いてきて、私がたどり着いた順番です。
